窃盗事件や事故のニュースを見ていると、こんな表現をよく目にします。
「高級腕時計など時価500万円相当が盗まれました」
「バッグ3点、時価約100万円相当を盗んだ疑い」
この「時価○万円相当」という金額を見て、
「誰が値段を決めているの?」
「買ったときの値段?」
「新品なら定価なの?」
「中古のブランドバッグや美術品はどう計算する?」
と疑問に思ったことはないでしょうか。
結論からいうと、ニュースでいう**「時価」は基本的に、その品物が事件当時の市場でどの程度の価値を持っていたかを表す金額**です。
警察庁の資料でも、物件の時価について「市場価格を参考にして決める」と説明されています。 (警視庁)
つまり、10年前に100万円で買った時計だからといって、
「購入価格100万円=現在の時価100万円」
になるとは限りません。
反対に、希少な腕時計や美術品などでは、購入時より市場価格が上昇していることもあります。
この記事では、ニュースでよく聞く「時価○万円相当」は誰がどうやって決めているのか、定価・購入価格・中古価格との違いから、ブランド品や美術品の場合まで分かりやすく解説します。

「時価○万円相当」とは?
「時価」とは簡単にいえば、その時点での品物の価値です。
「いくらで買ったか」だけではなく、
現在、市場でどのくらいの価値があるのか
を考えて評価します。
警察庁の遺失物法に関する解釈運用基準では、物件の価額について「物件の時価」とし、市場価格を参考に決めるとされています。 (警視庁)
そのためニュースで、
「腕時計1点(時価50万円相当)」
と報道された場合、基本的にはその腕時計の事件当時の価値が約50万円と評価されていると理解するとよいでしょう。
「時価」は定価とは違う
まず知っておきたいのが、
時価=定価
ではないということです。
たとえばメーカー希望小売価格が20万円のバッグがあったとします。
新品で普通に20万円前後で販売されているなら、その販売価格が価値を判断する材料になるでしょう。
しかし5年間使用したバッグなら、
- 使用年数
- 傷
- 汚れ
- 人気
- モデル
- 中古市場価格
などによって価値が変わります。
つまり、
定価20万円
↓
5年間使用
↓
現在の市場価値10万円程度
ということもあり得ます。
「時価」は購入価格とも違う
もう一つ重要なのが、
時価=本人が買った金額
とも限らないことです。
たとえば10年前に30万円で購入した腕時計が、現在中古市場で50万円前後で取引されているとします。
この場合、
購入価格:30万円
現在の市場価格:50万円前後
となります。
反対に30万円で購入したバッグが、中古市場では5万円程度になっていることもあります。
時価を考えるうえでは、「昔いくらで買ったか」より、現在どれくらいの価値があるかがポイントになります。
ニュースの「時価」は誰が決める?
事件報道の場合、ニュース番組や新聞社の記者が独自に適当な値段を付けているわけではありません。
多くの場合、警察の発表や捜査で把握された被害額などをもとに報道されています。
捜査では、
- 被害者の申告
- 購入価格
- レシート
- 商品の販売価格
- 市場価格
- 中古相場
- 品物の状態
- 専門家などの評価
といった情報が判断材料になり得ます。
品物によって価格の調べ方も変わります。
警察はどうやって時価を調べる?
では警察は具体的にどのように金額を確認するのでしょうか。
すべての事件で同じ方法が使われるわけではありませんが、まず重要な情報になるのが被害者からの聞き取りです。
たとえば、
「いつ購入しましたか?」
「いくらで購入しましたか?」
「どのメーカーですか?」
「型番は分かりますか?」
「レシートや保証書はありますか?」
といった情報を確認できます。
さらに必要に応じて市場価格などを調べ、被害品の価値を把握していくことになります。
被害者の「100万円した!」だけで決まるわけではない
ここは気になる人も多いでしょう。
たとえば被害者が、
「この時計は100万円の価値があります」
と言ったからといって、必ずそのまま、
「時価100万円相当」
と確定するわけではありません。
購入記録や商品情報、市場価格など、客観的な資料から価値を確認できる場合があります。
警察庁自身も、物の時価を正確に評価するには専門知識が必要で、製造年などの判別が難しい場合もあると説明しています。 (警視庁)
つまり、時価の算定は品物によっては簡単ではないのです。
新品の商品が盗まれた場合は?
では、店頭に並んでいる新品の商品が盗まれたらどうでしょうか。
この場合は販売価格が重要な基準になり得ます。
実際の窃盗事件の裁判例では、店舗で販売されていた商品の財産的被害について、仕入れ価格ではなく、経費や利益などを踏まえて設定された販売価格を基準に考えるべきだと判断された例があります。 (裁判所)
つまり、
「店は5万円で仕入れたから被害額5万円」
と単純に考えるとは限らないということです。
10万円の商品として販売されていたなら、販売価格が被害評価の重要な基準になる場合があります。
万引きの場合は?
スーパーやコンビニなどの万引きも分かりやすい例です。
たとえば、
販売価格3,000円の食品を万引き
した場合、販売価格が明確なので金額を把握しやすいでしょう。
実際の裁判例でも、スーパーで盗まれた衣料品・食料品などについて「販売価格合計9816円」と具体的に認定された例があります。 (裁判所)
店舗の商品は価格表示があるため、一般家庭にある中古品などと比較すると評価しやすいケースといえます。
中古品が盗まれた場合は?
少し難しくなるのが中古品です。
たとえば5年前に20万円で購入したテレビが盗まれたとします。
購入価格は20万円でも、
5年間使用したテレビ=現在も20万円の価値
とは通常考えにくいでしょう。
そのため、
- 購入時期
- 使用期間
- 商品の状態
- 同型商品の中古価格
- 市場での取引状況
などが時価を考える材料になります。
中古車、パソコン、スマートフォン、家電なども同じです。
ブランドバッグの時価はどう決める?
ブランド品では、さらに市場価格が重要になります。
たとえば同じバッグでも、
新品価格:50万円
中古美品:35万円
傷や汚れが多い:15万円
など状態によって価値が変わる可能性があります。
さらに人気モデルの場合、
定価より中古価格のほうが高い
というケースもあります。
そのためブランド名だけではなく、
- モデル
- 製造時期
- サイズ
- 色
- 状態
- 付属品
- 市場流通量
なども価値に影響します。
高級腕時計は購入価格より高くなることもある
高級腕時計は、時価という考え方が特に分かりやすい商品です。
たとえば10年前に80万円で購入した時計でも、人気が高まって中古市場で150万円前後になっていれば、
購入価格より現在の市場価値が高い
ことがあります。
そのため、
「80万円で買った時計だから被害額80万円」
とは限りません。
逆に人気が低下して中古相場が40万円なら、購入価格より価値が下がっている可能性もあります。
金や貴金属の場合は?
金・プラチナなどは市場価格が日々変動します。
たとえば金製品なら、
重量×その時点の金相場
が価値を考える際の重要な材料になります。
ただしジュエリーの場合は、
- ブランド
- デザイン
- 宝石
- 加工
- 希少性
などの価値も含まれるため、単純に金の重量だけで価格が決まるとは限りません。
宝石の場合は?
ダイヤモンドなどの宝石も簡単ではありません。
たとえばダイヤモンドなら、
- カラット
- カラー
- クラリティ
- カット
などによって価格が大きく変わります。
さらにブランドジュエリーならブランド価値も関係します。
そのため、高価な宝石では鑑定書などの資料が価値を判断する材料になることがあります。
美術品はどうやって時価を決める?
さらに難しいのが絵画や骨董品です。
スーパーの商品と違って、
「定価9万8000円」
と明確に決まっているわけではないからです。
美術品では、
- 作者
- 作品
- 制作年代
- 保存状態
- 真贋
- 過去の取引価格
- オークション相場
- 美術市場での評価
などによって価値が大きく変わります。
実際、警察庁の過去の警察白書でも、盗難美術品について「時価5,400万円相当」といった形で被害が記録されています。 (警視庁)
骨董品や古美術品は専門家が必要になることも
「祖父から譲り受けた壺」
のような品物では、購入価格そのものが分からない場合があります。
このようなケースでは、
作者・年代・市場での取引実績などから価値を評価
する必要が出てきます。
警察庁も、物の時価を正確に評価するには専門的知識が必要になることがあるとしています。 (警視庁)
そのため品物によっては、専門的な評価が重要になるわけです。
「時価100万円」と「時価約100万円相当」は何が違う?
ニュースでは、
「時価100万円」
より、
「時価約100万円相当」
という表現をよく見かけます。
これは時価が必ずしも1円単位まで正確に決められるものではないためです。
中古品、美術品、ブランド品などは、
「市場価値はおおむねこの程度」
という評価になる場合があります。
そのため「約」や「相当」という表現が使われるわけです。
「時価」と「被害額」は同じ?
似ていますが、必ずしも完全に同じ意味とは限りません。
窃盗事件の場合、盗まれた物の時価が被害額を考える重要な要素になります。
一方、事件によっては、
- 現金
- 商品
- 建物の破損
- 設備の修理費
など複数の被害が発生することがあります。
そのため、
「盗まれた品物の時価」と「事件全体の被害額」
が一致しないケースもあります。
現金の場合は「時価相当」と言わない?
現金100万円が盗まれた場合は、価値が明確です。
そのため一般的には、
「現金100万円を盗んだ」
と表現できます。
わざわざ、
「現金時価100万円相当」
と評価する必要性は低いわけです。
一方、財布そのものについては別途価値があります。
実際の裁判例では、
現金約3万9000円などが入った「財布1個(時価約4万円相当)」
という形で、現金と財布の価値を分けて認定した例があります。 (裁判所)
スマホが盗まれたら新品価格になる?
必ず新品価格になるとは限りません。
たとえば2年間使ったスマートフォンなら、
新品購入時:15万円
だったとしても、現在の中古市場では5万円程度ということもあります。
その場合、購入時価格だけでなく、
- 機種
- 容量
- 使用期間
- 状態
- 中古市場価格
などが価値を判断する材料になります。
思い出の品は「時価100万円」にできる?
残念ながら、本人にとっての思い入れと市場価値は別の問題です。
たとえば祖父からもらった時計が、
「自分にとっては100万円以上の価値がある」
と思っていても、市場では1万円程度で取引されているかもしれません。
時価は基本的に、本人の感情的価値ではなく客観的な市場価値を中心に考えるものです。
そのため、
「自分にとって大切=時価が高い」
とはなりません。
逆に「ゴミだと思っていた物」が高額になることも
反対のケースもあります。
本人が、
「古いからほとんど価値はない」
と思っていた時計や骨董品でも、希少価値があれば市場では高額になる可能性があります。
つまり時価は、
持ち主が思っている価値
ではなく、
市場でどの程度の価値が認められるか
が重要なのです。
ニュースの時価は後から変わることもある?
捜査が進むことで被害品の種類や数量、価値などが詳しく判明する場合があります。
そのため事件発生直後の報道と、その後の捜査・裁判で示される金額が異なることもあり得ます。
警察庁の犯罪統計にも「被害額認定困難なもの」という区分が存在しており、すべての被害について直ちに正確な金額を算定できるわけではないことが分かります。 (警視庁)
事件直後の数字は、後からより詳しい情報によって整理される可能性があると考えておくとよいでしょう。
「時価○万円相当」は犯人が売った金額ではない
ここも重要です。
たとえば、
時価100万円の時計を盗む
↓
犯人が買取店で40万円で売る
というケースがあったとします。
この場合、
時価=100万円
売却価格=40万円
となる可能性があります。
犯人が実際にいくらで換金したかと、盗まれた物そのものの価値は別だからです。
実際の裁判例でも、被害品の販売価格と犯人側の売却価格が別々に示されているものがあります。 (裁判所)
ニュースの「時価」を見るときのポイント
ニュースで、
「時価300万円相当の腕時計が盗まれた」
と聞いたら、
「持ち主が300万円で買った」
と考えるのではなく、
「事件当時、その品物にはおおむね300万円程度の市場価値があると評価されている」
と理解すると分かりやすいでしょう。
特にブランド品・時計・宝石・美術品では、購入時と現在で価格が大きく変わることがあります。
「時価○万円相当」についてよくある質問
Q. 時価は誰が決める?
事件報道では、警察の捜査などで把握された被害額をもとに報道されることが一般的です。被害者の申告だけではなく、販売価格や市場価格、商品情報などが判断材料になり得ます。
Q. 買ったときの値段が時価になる?
必ずしもなりません。購入価格は参考情報になりますが、時間が経って価値が下がったり、逆に希少価値によって上昇したりすることがあります。
Q. 新品なら定価が時価?
実際の販売価格が重要な基準になることがあります。店舗の商品について、販売価格を基準に財産的被害を考えるべきだとした裁判例もあります。 (裁判所)
Q. 中古品はどうする?
同じ商品の中古相場、使用年数、状態などが判断材料になります。
Q. ブランド品は定価より高く評価されることもある?
あり得ます。人気や希少性によって中古市場価格が定価を上回っていれば、市場価値が購入時より高くなっていることがあります。
Q. 被害者が好きな金額を申告できる?
被害者の申告は情報の一つですが、それだけで客観的な時価が決まるわけではありません。市場価格などを参考に評価できます。 (警視庁)
Q. 「時価100万円相当」は犯人が100万円得たという意味?
違います。品物の価値が約100万円という意味で、犯人が実際に売却して得た金額とは別です。
まとめ|「時価○万円」は事件当時の市場価値が基本
ニュースでよく聞く、
「時価○万円相当」
という言葉。
簡単にいうと、
その品物が事件当時、客観的にどれくらいの価値を持っていたのかを示した金額
と理解すると分かりやすいでしょう。
警察庁の資料でも、物件の時価は市場価格を参考に決めるとされています。 (警視庁)
そのため、
購入価格=時価
定価=時価
犯人が売った価格=時価
とは限りません。
新品の商品なら販売価格が重要な基準になることがありますし、中古のスマートフォンや家電なら現在の中古相場、ブランド時計なら市場での取引価格、美術品なら作者・希少性・取引実績など、品物によって評価方法は変わります。
ニュースで、
「高級腕時計3点、時価計1000万円相当が盗まれました」
と聞いたときは、
「持ち主が1000万円で購入した」ではなく、「事件当時の品物の価値がおおむね合計1000万円と評価されている」
という意味だと考えるとよいでしょう。
普段何気なく聞いている「時価○万円相当」という表現ですが、実は事件による財産的な被害の大きさを客観的に伝えるための重要な数字なのです。





