「逸失利益って何?」
「交通事故のニュースで聞いたけれど、慰謝料とは違うの?」
「働いていない主婦や子どもにも逸失利益はある?」
交通事故や損害賠償について調べていると、よく登場するのが**「逸失利益(いっしつりえき)」**という言葉です。
法律用語なので難しく感じますが、意味はそれほど複雑ではありません。
簡単にいうと逸失利益とは、事故などがなければ将来得られたはずなのに、事故によって得られなくなった利益・収入のことです。
例えば、交通事故で後遺障害が残り、それまでと同じように働けなくなった場合、「将来稼げたはずの収入」が減ってしまう可能性があります。
その損失を一定の方法で計算したものが逸失利益です。
この記事では、逸失利益とは何なのかをできるだけ簡単な言葉で説明しながら、計算方法や慰謝料との違い、会社員・主婦・子ども・高齢者の場合などを解説します。
※本記事は一般的な制度の解説です。実際の損害賠償額は事故の状況、年齢、収入、後遺障害の程度などによって大きく異なります。

逸失利益とは?一言でわかりやすくいうと
逸失利益を一言で表すなら、
「本来なら将来もらえるはずだったのに、事故などによって失ってしまったお金」
です。
例えば30歳の会社員Aさんが交通事故に遭ったとします。
事故前は問題なく仕事をしていましたが、事故によって重い後遺障害が残り、以前と同じようには働けなくなりました。
事故がなければ、Aさんは今後も働いて給料を得られたはずです。
ところが事故によって労働能力が低下し、将来得られる収入が減ってしまいました。
この**「将来得られたはずの収入の減少分」**が逸失利益を考える基本になります。
「逸失利益」の読み方は?
逸失利益は、
いっしつりえき
と読みます。
「逸失」には、得られるはずだったものを失うといった意味があります。
そのため、
逸失利益=得られるはずだったのに失った利益
と覚えておくと分かりやすいでしょう。
逸失利益はどんなときに発生する?
代表的なのが交通事故です。
交通事故の被害者に後遺障害が残った場合、将来の労働能力が低下する可能性があります。
例えば、
「片腕を十分に動かせなくなった」
「視力に重大な障害が残った」
「脊髄を損傷して仕事に大きな制限が生じた」
などです。
こうした後遺障害によって将来の収入に影響が出る場合、逸失利益が損害として問題になります。
また、交通事故によって被害者が亡くなった場合にも逸失利益が問題になります。
逸失利益には大きく2種類ある
交通事故では、大きく分けて次の2つの逸失利益があります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害によって将来得られる収入が減った分 |
| 死亡逸失利益 | 亡くならなければ将来得られたと考えられる利益 |
それぞれ考え方が少し違います。
後遺障害逸失利益とは?
交通事故によって後遺障害が残った場合に問題となるのが後遺障害逸失利益です。
例えば年収500万円の人に、事故によって一定程度の労働能力低下が生じたとします。
事故がなければ今後も年収500万円程度を得られた可能性があります。
しかし後遺障害によって働ける能力が低下すれば、将来の収入にも影響が出るでしょう。
その損失を一定の基準で金額に換算するのが後遺障害逸失利益です。
逸失利益はどうやって計算する?
後遺障害逸失利益では、一般的に次のような要素を使って計算します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応する係数
少し難しいですよね。
一つずつ簡単に見ていきましょう。
「基礎収入」とは?
基礎収入とは、逸失利益を計算する際のベースとなる収入です。
会社員であれば、事故前の収入などが重要になります。
例えば、
年収500万円
だった人なら、その金額が計算の出発点になる場合があります。
ただし、
- 会社員
- 自営業者
- 主婦・主夫
- 学生
- 子ども
- 無職者
- 高齢者
などで考え方が異なります。
「現在の年収だけで機械的に決まる」とは限りません。
労働能力喪失率とは?
次に重要なのが労働能力喪失率です。
簡単にいうと、
「後遺障害によって働く能力をどの程度失ったと考えるか」
を割合で表したものです。
例えば、
「労働能力を35%失った」
と評価された場合には、
労働能力喪失率35%
として計算することがあります。
後遺障害の等級などが重要な判断材料になりますが、実際の仕事内容や障害の影響なども問題になる場合があります。
労働能力喪失期間とは?
後遺障害による影響が、どれくらいの期間続くと考えるかを示すものです。
例えば30歳の人と60歳の人では、将来働けると考えられる期間が違います。
そのため、年齢などによって逸失利益の金額は大きく変わる可能性があります。
なぜ単純に「年収×残り年数」ではないの?
ここは逸失利益で分かりにくい部分です。
例えば、
「年間100万円の損失が30年間続くなら3,000万円では?」
と思いますよね。
しかし、将来受け取るはずだったお金を現在まとめて受け取ることになるため、単純な掛け算にはなりません。
将来のお金を前倒しで受け取ることによる利息相当分などを調整するため、計算にはライプニッツ係数などが使われます。
そのため、
「年収×喪失率×年数」
だけで正確な逸失利益が決まるわけではありません。
逸失利益を具体例で計算してみる
分かりやすいように、単純化した例を考えてみましょう。
年収500万円の人が交通事故に遭い、後遺障害によって労働能力を20%失ったとします。
まず1年間の収入への影響を単純に考えると、
500万円×20%=100万円
です。
つまり、年間100万円分の労働能力を失ったと考えます。
ここに労働能力喪失期間に対応する係数などを掛けて、将来分の逸失利益を算定していきます。
実際には年齢や後遺障害の内容、仕事への影響などさまざまな要素が関係するため、この計算だけで最終的な賠償額が決まるわけではありません。
逸失利益と慰謝料の違いは?
非常によく混同されるのが逸失利益と慰謝料です。
この2つは別の損害です。
簡単に整理すると、
| 項目 | 何に対するお金? |
|---|---|
| 逸失利益 | 将来得られたはずの収入・利益の損失 |
| 慰謝料 | 精神的・肉体的苦痛に対する補償 |
例えば事故によって後遺障害が残った人の場合、
「後遺障害によって将来の収入が減る」
ことと、
「後遺障害が残ったことによる精神的苦痛」
は別問題です。
そのため、一定の条件を満たせば後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料の両方が損害として問題になることがあります。
逸失利益と休業損害の違いは?
もう一つ混同しやすいのが休業損害です。
簡単にいうと、
休業損害=事故後、治療などで仕事を休んだことによる収入減
逸失利益=後遺障害などによる将来の収入減
という違いがあります。
例えば、
交通事故
↓
3か月入院して会社を休む
↓
治療後も後遺障害が残る
というケースを考えてみましょう。
入院中に仕事ができなかったことによる収入減が「休業損害」。
後遺障害によって今後の仕事に影響が出ることによる将来の収入減が「逸失利益」です。
主婦・主夫にも逸失利益はある?
「専業主婦は給料をもらっていないから、逸失利益は0円?」
と思うかもしれません。
必ずしもそうではありません。
家事労働にも経済的な価値があると考えられているため、専業主婦・主夫であっても、事故によって家事能力が低下した場合には逸失利益が認められる可能性があります。
この場合、会社員のように実際の給与明細があるわけではないため、賃金統計などを基礎として計算することがあります。
つまり、
「給料をもらっていない=逸失利益がない」
とは限らないのです。
子どもにも逸失利益はある?
子どもは働いていないため、
「収入がないのだから逸失利益もないのでは?」
と思いますよね。
しかし、子どもも将来働いて収入を得る可能性があります。
そのため交通事故によって死亡したり、重大な後遺障害が残ったりした場合には、将来得られたと考えられる収入を推定して逸失利益を算定することがあります。
実際の年収がまだ存在しないため、賃金統計などを利用して計算されます。
学生の場合は?
大学生や高校生などの場合も同様です。
現在アルバイトしかしていなくても、
「卒業後に就職して働く可能性」
があります。
そのため現在のアルバイト収入だけを基準にするとは限りません。
年齢、学歴、就職の可能性などさまざまな事情を考慮して基礎収入が判断されることがあります。
無職でも逸失利益は認められる?
「事故当時、無職だったら0円?」
これも一概にはいえません。
事故当時に仕事をしていなくても、
働く能力や働く意思があり、将来的に就職する可能性が高かった
などの事情があれば、逸失利益が認められる可能性があります。
一方、就労する可能性が認められない場合には、逸失利益が否定されることもあります。
「無職=必ず0円」という単純な判断ではありません。
高齢者にも逸失利益はある?
高齢者でも逸失利益が認められる可能性があります。
例えば70歳でも現役で仕事をしており、事故がなければ今後も働き続ける可能性が高かった場合などです。
ただし、年齢や職業、健康状態、実際の就労状況などが判断材料になります。
また家事を担っている高齢者の場合には、家事労働への影響が問題になることもあります。
死亡逸失利益とは?
交通事故などによって被害者が亡くなった場合にも、逸失利益が問題になります。
これが死亡逸失利益です。
亡くならなければ、その人は将来も働いて収入を得られた可能性があります。
その将来の利益を一定の方法で算定します。
ただし死亡した場合には、将来得られるはずだった収入をそのまま全部計算するわけではありません。
なぜ死亡逸失利益から生活費を引くの?
死亡逸失利益では一般的に、将来の収入から一定割合の生活費を控除して考えます。
理由は分かりやすいです。
もし事故がなかった場合、その人は将来収入を得る一方で、
食費
衣服代
生活費
など自分自身のためのお金も使っていたはずです。
亡くなったことで将来の収入は得られなくなりますが、本人が将来使うはずだった生活費も発生しなくなります。
そのため死亡逸失利益では、一定の生活費を差し引いて計算する考え方が取られています。
死亡逸失利益の計算方法は?
一般的な考え方を簡略化すると、
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能期間に対応する係数
といった形になります。
後遺障害逸失利益とは異なり、死亡した場合には生活費控除が重要なポイントです。
生活費控除率は家族構成などによって異なることがあります。
逸失利益はいくらくらいになる?
「結局、いくらもらえるの?」
と気になるところですが、逸失利益には一律の金額がありません。
数十万円程度になるケースもあれば、重い後遺障害や死亡事故などでは数千万円規模になる可能性もあります。
金額を大きく左右するのが、
- 年齢
- 年収・基礎収入
- 職業
- 後遺障害等級
- 労働能力喪失率
- 労働能力喪失期間
- 死亡事故なら生活費控除率
などです。
特に若い人の場合は将来働く期間が長いため、逸失利益が高額になることがあります。
年収が高ければ逸失利益も高くなる?
基本的には、基礎収入が高ければ逸失利益も大きくなる方向に働きます。
例えば同じ年齢、同じ労働能力喪失率、同じ期間であれば、
年収300万円の人より年収800万円の人のほうが将来失う収入も大きくなると考えられるからです。
ただし、高額所得者の場合などには将来も同じ収入を継続できたのかが争点になるケースもあります。
現在の年収だけを単純に掛け算すればいいとは限りません。
後遺障害があれば必ず逸失利益をもらえる?
ここも注意が必要です。
後遺障害が認められたからといって、必ず機械的に一定額の逸失利益が支払われるとは限りません。
その後遺障害が、
実際の仕事や収入にどの程度影響するのか
が問題になる場合があるためです。
職業によって同じ身体機能の障害でも仕事への影響が違うことがあります。
例えば指の細かな動きが重要な仕事と、そうでない仕事では、同じ障害でも労働能力への影響について議論になる可能性があります。
逸失利益についてよくある疑問
逸失利益に税金はかかる?
交通事故による損害賠償金については、一般的な給与所得とは扱いが異なります。
ただし、支払いの性質や個別事情によって税務上の扱いを確認する必要があるケースもあるため、高額な賠償金を受け取る場合などは税理士等への確認も選択肢になります。
逸失利益は一括でもらう?
損害賠償では一括で支払われるケースが一般的ですが、個別の和解や判決などによって事情は異なります。
将来分を現在受け取るため、前述した中間利息の控除という考え方が重要になります。
保険会社が計算してくれる?
交通事故の場合、相手方の保険会社から損害額の提示を受けることがあります。
ただし、提示された金額が必ずしも最終的に妥当な金額とは限りません。
特に後遺障害や死亡事故では逸失利益が高額になる可能性があるため、計算の前提となった基礎収入、労働能力喪失率、期間などを確認することが重要です。
逸失利益を超簡単に例えると?
最後に、法律用語を使わずに例えてみましょう。
あなたが毎年500万円を稼げる仕事をしていたとします。
ところが他人の過失による事故で後遺障害が残り、以前と同じようには働けなくなりました。
事故がなければ将来も得られた可能性がある収入があります。
しかし事故によって、その一部を失いました。
この、
「事故さえなければ将来手に入ったはずのお金」
を損害として評価するのが逸失利益の基本的な考え方です。
一方、
「事故で痛い思いをした、後遺障害が残ってつらい」
という精神的苦痛に対するものが慰謝料です。
この2つを分けると、かなり理解しやすくなります。
まとめ|逸失利益とは「将来もらえるはずだったのに失った利益」
逸失利益という言葉は難しく見えますが、意味はシンプルです。
「事故などがなければ将来得られたはずなのに、事故によって得られなくなった利益」
と覚えておきましょう。
交通事故では主に「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」が問題になります。
そして逸失利益と慰謝料は同じものではありません。
逸失利益=将来の収入・利益などの損失
慰謝料=精神的・肉体的苦痛に対する補償
という違いがあります。
また、会社員だけが対象になるわけではありません。
専業主婦・主夫、学生、子ども、無職者、高齢者でも、それぞれの事情によって逸失利益が認められる可能性があります。
実際の金額は年齢、収入、職業、後遺障害、働ける期間などによって大きく変わります。
そのため高額な損害賠償が問題になる事故では、「逸失利益という項目がある」ことを知っておくこと自体が重要です。
※本記事は逸失利益について一般向けに分かりやすく解説したもので、個別案件に対する法律相談ではありません。具体的な事故の賠償額については、弁護士などの専門家へ相談してください。






