「NTM症」という病気をニュースや健康診断などで初めて知った人もいるのではないでしょうか。
NTM症とは、非結核性抗酸菌(NTM:Nontuberculous Mycobacteria)によって起こる感染症です。
特に多いのが肺に感染する「肺NTM症」で、日本でも患者数の増加が注目されています。
「結核と何が違うの?」
「人から人にうつる?」
「どんな症状が出る?」
「治る病気なの?」
と心配になる人もいるでしょう。
NTM菌は身近な環境に存在しており、結核とは異なり、通常は人から人へ感染する病気とは考えられていません。
一方で、肺NTM症は長期間にわたって経過をみたり、複数の薬を使って治療したりすることがある病気です。
この記事では、NTM症とはどんな病気なのか、原因・症状・感染経路・検査・治療法についてわかりやすく解説します。

NTM症とは?
NTM症とは、非結核性抗酸菌によって引き起こされる感染症です。
非結核性抗酸菌は英語で、
Nontuberculous Mycobacteria
と呼ばれ、その頭文字を取って「NTM」と呼ばれています。
抗酸菌の仲間には結核を引き起こす結核菌などがありますが、NTMはそれらとは異なる菌です。
非結核性抗酸菌には非常に多くの種類があり、その中の一部が人に病気を起こします。
日本で特に多いのが、
Mycobacterium avium(M. avium)
Mycobacterium intracellulare(M. intracellulare)
などによって起こる肺MAC症です。
MACとは「Mycobacterium avium complex」の略称です。
つまり肺MAC症は、肺NTM症の代表的なタイプの一つということになります。
NTM症と肺NTM症は違う?
「NTM症」と「肺NTM症」という2つの言葉が出てくるため、混乱するかもしれません。
NTM菌による感染症全体をNTM症と呼び、そのうち肺に病変が起きるものが肺NTM症です。
NTM症は肺以外にも起こることがありますが、日本では肺に感染するケースが多いため、一般的にNTM症という言葉を肺NTM症の意味に近い形で目にすることもあります。
この記事では主に、患者数の多い肺NTM症について解説します。
NTM菌はどこにいる?
NTM菌は特殊な場所だけに存在する菌ではありません。
土壌や水など自然環境の中に広く存在する菌です。
水回りなど身近な生活環境から検出されることもあります。
そのため、日常生活の中でNTM菌に触れる機会そのものは珍しくありません。
しかし、
NTM菌に触れた人が全員NTM症になるわけではありません。
菌が体内に入ったとしても必ず病気を発症するわけではなく、発症には本人の体質や肺の状態など、さまざまな要因が関係すると考えられています。
NTM症の原因は?
肺NTM症は、環境中に存在するNTM菌が気道などを通じて肺に入り、そこで増殖することで発症すると考えられています。
NTM菌は、
- 土壌
- 水
- 水回りなどの生活環境
などに存在します。
ただし、
「この場所に行ったから感染した」
「これを使ったことが原因」
と個人レベルで感染源を特定するのは難しいケースが多いです。
身近な環境に存在する菌だからこそ、単純に「菌を完全に避ければよい」という病気でもありません。
NTM症は人から人にうつる?
NTM症について特に気になるのが、
「家族にうつるの?」
という疑問でしょう。
肺結核では人から人への感染が問題になりますが、肺NTM症は通常、人から人へ感染する病気とは考えられていません。
そのため、一般的な肺NTM症では結核のように患者を隔離する必要はありません。
一緒に食事をしたり、同じ部屋で生活したりしただけで家族へ次々と感染するような病気ではないとされています。
ただし、一部の菌種や特定の患者集団では人から人への伝播が示唆された報告もあります。
そのため、基礎疾患など特殊な状況がある場合は主治医の指示に従うことが重要です。
NTM症と結核の違いは?
NTM症と結核は、どちらも「抗酸菌」と呼ばれる菌の仲間によって起こります。
しかし、原因となる菌や感染の特徴などが異なります。
| NTM症 | 結核 | |
|---|---|---|
| 主な原因 | 非結核性抗酸菌 | 結核菌 |
| 菌がいる場所 | 土壌・水など環境中 | 主に感染した人 |
| 人から人への感染 | 通常はしない | することがある |
| 隔離 | 通常不要 | 状況によって必要 |
| 治療 | 菌種などに応じた複数薬剤 | 抗結核薬を組み合わせる |
「抗酸菌による肺の病気」という共通点はありますが、NTM症と結核は同じ病気ではありません。
NTM症になりやすい人は?
肺NTM症は誰にでも起こる可能性があります。
一方、特定の特徴を持つ人に多くみられることも知られています。
例えば、
中高年の女性
で多くみられるタイプがあります。
また、
- 気管支拡張症
- COPD
- 過去の肺結核
- 間質性肺疾患
- その他の肺疾患
など、もともと肺に病気がある人でも発症することがあります。
免疫機能が低下している人では、肺以外を含むNTM症のリスクが高くなる場合もあります。
ただし、
「この条件に当てはまる=NTM症になる」
というわけではありません。
明らかな基礎疾患がない人が肺NTM症になることもあります。
NTM症の初期症状は?
肺NTM症は、初期には症状がほとんどない場合があります。
健康診断などで胸部X線やCT検査を受けた際に異常を指摘され、詳しく検査した結果、肺NTM症が疑われるケースもあります。
症状が出る場合には、
咳
痰
などが比較的よくみられます。
ただし、咳や痰は風邪をはじめ多くの呼吸器疾患でも起こるため、症状だけでNTM症と判断することはできません。
NTM症が進行するとどんな症状が出る?
病気が進行すると、
- 長引く咳
- 痰
- 血痰
- 息切れ
- 倦怠感
- 食欲低下
- 体重減少
- 発熱
などがみられることがあります。
ただし、肺NTM症の進行速度にはかなり個人差があります。
比較的ゆっくり経過する人もいれば、肺の病変が進行する人もいます。
「症状が軽いから大丈夫」「咳があるからNTM症だ」と自己判断せず、長引く呼吸器症状がある場合は医療機関へ相談することが大切です。
NTM症は健康診断で見つかることもある
肺NTM症では、健康診断の胸部X線検査などが発見のきっかけになることがあります。
しかし、胸部X線だけでNTM症と確定できるわけではありません。
肺NTM症が疑われた場合には、
胸部CT検査
喀痰検査
培養検査
などを組み合わせて詳しく調べます。
NTM菌は環境中にも存在するため、痰からNTM菌が一度検出されただけで、直ちに「肺NTM症」と診断されるとは限りません。
症状、画像所見、菌の検査などを総合的に判断することが重要です。
NTM菌が見つかったらすぐ治療する?
ここはNTM症を理解するうえで重要なポイントです。
肺NTM症と診断されたからといって、全員がすぐ薬物治療を始めるとは限りません。
病気の進み方が比較的ゆっくりしている場合などには、定期的な画像検査や痰の検査などを行いながら経過観察するケースがあります。
一方、
- 症状が強い
- 画像上の病変が進行している
- 空洞性病変がある
- 菌の検出状況などから進行リスクが高い
と判断される場合には、治療が検討されます。
いつ治療を開始するかは、菌の種類や症状、画像所見、年齢、基礎疾患などを考慮して医師が判断します。
NTM症の治療方法は?
肺NTM症の治療では、一般的に複数の抗菌薬を組み合わせて使用します。
日本で多い肺MAC症では、病状や薬剤感受性などに応じて、
マクロライド系薬
エタンブトール
リファマイシン系薬
などを組み合わせる治療が基本となります。
重症度などによっては、ほかの薬剤が追加されることもあります。
どの薬を使用するかは、菌種や病型、薬剤耐性、患者の状態などによって異なります。
自己判断で薬を中止したり減らしたりせず、呼吸器専門医などの指示に従うことが重要です。
NTM症の治療期間は長い?
肺NTM症の治療は、一般的な細菌性肺炎などと比べて長期間になることがあります。
肺MAC症では、痰の培養検査で菌が陰性化した後も一定期間治療を続けることが推奨される場合があります。
そのため、治療が1年以上に及ぶことも珍しくありません。
「症状がなくなったから治った」と自己判断して服薬を中断すると、治療がうまくいかなかったり薬剤耐性が問題になったりする可能性があります。
長期治療になるからこそ、医師と相談しながら継続することが大切です。
薬の副作用にも注意が必要
NTM症では複数の薬を長期間使用する場合があるため、副作用の確認も重要です。
薬剤によって、
- 視力・色覚への影響
- 肝機能障害
- 消化器症状
- 聴力への影響
- 発疹
などが起こることがあります。
実際にどのような副作用に注意する必要があるかは使用する薬によって異なります。
定期的な血液検査や眼科検査などが必要になることもあるため、主治医の指示に従いましょう。
服薬中に普段と違う症状が出た場合も、自己判断で中止するのではなく医療機関へ相談してください。
NTM症は治るの?
「NTM症は治らない病気なの?」
と不安になる人もいるかもしれません。
肺NTM症の経過は人によって大きく異なります。
適切な治療によって痰から菌が検出されなくなり、病状が安定する人もいます。
一方で、治療後に再び菌が検出されたり、新たに環境から別の菌に感染したりするケースもあります。
そのため、
「薬を飲めば必ず完全に治って二度と再発しない」
とは言い切れません。
長期間にわたって病気と付き合いながら、定期的な検査で状態を確認することが重要になる場合があります。
NTM症になると寿命は短くなる?
「NTM症 寿命」と検索して不安になっている人もいるでしょう。
しかし、NTM症と診断されたからといって、一律に寿命が決まるわけではありません。
肺NTM症にはさまざまなタイプがあり、
- 原因となる菌種
- 肺の病変の広がり
- 空洞の有無
- 年齢
- 栄養状態
- 基礎疾患
- 治療への反応
などによって経過は大きく異なります。
長期間大きく進行せず生活している人もいます。
一方、進行性のタイプでは肺機能などに影響することがあるため、継続的な診察が重要です。
ネット上にある「平均余命」などの数字だけを自分自身に当てはめないようにしましょう。
NTM症になったら日常生活で何に注意する?
肺NTM症の人すべてに共通する「これをすれば絶対に悪化しない」という生活方法があるわけではありません。
一方で、呼吸器の健康を保つためには、
禁煙
十分な栄養
適度な運動
基礎疾患の管理
処方された薬を適切に使用する
といった基本的な健康管理が重要です。
NTM菌が環境中に存在することを知って、
「水を触ってはいけない」
「土のある場所には絶対行けない」
と極端に生活を制限する必要があるとは限りません。
生活環境について気になる場合は、自分の病状を把握している主治医に相談するのが安心です。
どんな症状なら病院へ行く?
例えば、
咳や痰が長期間続いている
血痰が出る
息切れが続く
原因不明の体重減少がある
健康診断で肺の異常を指摘された
といった場合には、呼吸器内科などへの相談を検討しましょう。
特に血痰はNTM症以外にもさまざまな病気で起こる可能性があります。
症状だけで原因を判断せず、医療機関で適切な検査を受けることが大切です。
NTM症についてよくある疑問
NTM症は肺がんですか?
NTM症は肺がんではありません。
NTM菌によって起こる感染症です。
ただし画像検査で肺に影が見つかる場合があり、ほかの肺疾患との区別が必要になることがあります。
NTM症は結核ですか?
結核ではありません。
NTM症は非結核性抗酸菌による病気、結核は結核菌による病気です。
家族にうつりますか?
一般的な肺NTM症は、通常の生活で人から人へ感染する病気とは考えられていません。
そのため、一般的には結核のような隔離は必要ありません。
NTM菌が検出されたらNTM症ですか?
必ずしもそうではありません。
NTM菌は環境中にも存在するため、菌が検出されたことだけではなく、画像検査や症状なども含めて診断します。
症状がなくても治療が必要ですか?
病状によります。
肺NTM症と診断されても、すぐ薬物治療を開始せず経過観察になるケースがあります。
治療開始のタイミングは専門医と相談して決めることが重要です。
まとめ
今回は、NTM症とはどんな病気なのかについて解説しました。
NTM症は、
非結核性抗酸菌(NTM)によって起こる感染症
です。
特に多いのが肺に感染する「肺NTM症」で、日本では肺MAC症が代表的です。
NTM菌は土壌や水など身近な環境に存在していますが、菌に触れた人全員が発症するわけではありません。
また、結核とは異なり、一般的な肺NTM症は通常、人から人へ感染する病気とは考えられていません。
初期には症状がほとんどないこともありますが、咳や痰、血痰、息切れ、体重減少などがみられる場合があります。
肺NTM症と診断されても、すべての人がすぐ治療を開始するわけではありません。
経過観察になる人もいれば、複数の抗菌薬を長期間服用する人もいます。
「NTM症=すぐに重症になる」「絶対に治らない」と考える必要はありませんが、経過には大きな個人差があります。
健康診断で肺の異常を指摘された場合や、咳・痰などの症状が長く続いている場合には、自己判断せず呼吸器内科などの医療機関へ相談しましょう。
※この記事はNTM症についての一般的な情報をまとめたもので、個別の診断や治療を目的としたものではありません。治療の必要性や薬の選択については、医師に相談してください。






